[プレスリリース] 全国初 産学官による消防隊員の教育訓練に特化したVR共同研究開発
東京理科大学・株式会社 理経・横浜市消防局は,東京大学 連携研究機構 バーチャルリアリティ教育研究センターと連携し,産学官連携によるVR(バーチャルリアリティ)システムの共同研究開発についての契約を締結しました。実火災に近い状態で燃焼データを収集するため、ニッタン株式会社の技術支援を受け、東京理科大学火災科学研究所実験棟において4回の燃焼実験を行いました。測定したデータをVRに移行してシステムを開発するのは国内初となります。
[ プレスリリース ] (2020/3/19)
1 共同研究開発の概略
消防隊員の教育訓練に特化したVR消防教育訓練シミュレーションシステム(以下、VR消防教育訓練システム)を構築し、2020年度中の完成を目指します。
2 共同研究開発の体制
・VR研究・開発 東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター
廣瀬通孝 教授、雨宮智浩 准教授、青山一真 助教
・火災燃焼研究 東京理科大学理工学部建築学科
大宮喜文 教授
・教育訓練研究・検証 横浜市消防局 消防訓練センター 管理・研究課
・VR製品開発 株式会社 理経
3 VR技術を消防教育訓練に活用する目的
全国の消防本部の傾向として、知識や経験を積んだベテラン消防隊員が減少し、経験の浅い若年層の消防隊員の割合が急速に増加している一方で、火災件数は毎年6%から8%程度の減少傾向にあり、消防隊員が火災現場で経験を積むことが難しくなってきているという状況にあります。
消防隊員の活動は、知識だけでなく火災現場の経験を積むことでしか得られないものもあります。そこで、今回開発するVR消防教育訓練システムを活用し、限りなく実際の現場に近い環境下で経験値を積み、殉職や受傷事故を防止し、消防活動の質の向上を図ります。
《2018年度消防現勢(全国消防長会調べ)》
・18歳から30歳までの若年層の割合 ⇒ 33.04% (横浜市:29.4%)
・50歳から59歳までのベテラン層の割合 ⇒ 18.49% (横浜市:25.8%)
4 共同研究開発の内容 VR消防教育訓練シミュレーションシステム
(1) 科学的なバーチャル火災現象の再現
建物室内を実際に燃焼させて火災を再現し、温度を基軸とした熱の分布、煙の移動、火炎の挙動などを測定していきます。これにより、時間経過とともに推移していく火災現象を正確に捉えながら、消火活動との相互作用も含めて再現していきます。
熱分布測定のイメージ
燃焼実験の様子(2) 複数人が協調作業できるVR環境
実災害で消防隊はチームで行動するため、それぞれの隊員の視点を維持しながらチーム単位で活動できるようシステムを構築します。
これにより、VR空間内で複数人の活動したデータを記録しておくことで訓練実施後に反省点を確認することや経験値の高いベテラン隊員の行動を追体験することが可能になります。
VR訓練のイメージ
(3) 消防隊員が活動時の判断に活用している感覚情報の特定
火災現場における消防隊の活動では、人間の感覚器官からの情報も重要になってきます。そこで、実際にどのような感覚情報を基に判断し行動しているのかなど、感覚再現デバイス(実際と同様な感覚を得ることができる装置)を用いてシミュレーションしていきます。
感覚情報を通して得られる状況判断のコツや非言語的なノウハウを抽出していき、心理的および医学的観点からの影響についても研究します。
5 VRの開発
理経では燃焼実験で得た詳細な測定データを基に、VR開発環境として「Unreal Engine」を使用し温度を基軸とした熱の分布、煙の移動、火炎の挙動をリアルタイムに可視化できる技術開発に注力します。
6 今後の展開
本開発成果を基に、多様な現場環境を再現していきます。またハプティクス(※)など最先端の要素も取り込みながら、産学官のさらなる連携により受傷事故や殉職者の減少につながる技術開発・社会実装を行っていきます。
※ハプティクス:利用者に力、振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得る触覚技術